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    • 2016.04.04 Monday
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    『 幻 愛 』 〜 詩小説 6 〜

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      18



       ボクは彼女の一言一言に覚醒させられるようなおもいになった。


       「い、妹って、あっちゃん?」


       「そうよ・・・・・。」


      彼女の言葉は、とぎれとぎれだ。


       「わ、わたしの・・・・。私の目を見て・・・・・。」


      ボクはためらうことなく彼女を見つめた。


       「こ、これが私・・・・。本当の姿・・・・・。あ、あなたに見て欲しかっ

       た・・・・。」


       「み、見てるよ・・・・。」


      これだけ言うのが精一杯だった。みるみるうちに彼女の目から涙が溢

      れた。ボクはどうしようもない思いに駆られた。両の手が震える。抱き

      しめたい。彼女をこの手で思いっきり抱きしめてあげたい。その瞬間、

      想いは行動となった。ボクは彼女を抱きしめた。おもいきり抱きしめ

      た。


       「あなたは、大事なことを忘れてるは・・・・。」


      耳元で彼女がささやいた。その瞬間、体中に電撃が走った。


       「うわぁーっ!」


      ボクは叫んだ。と同時に、記憶は薄れていった。(ど、何処へ行くん

      だ?)




       ”ポン、ポポン、ポポンポポン、ポン、ポポン、ポポンポポン、ポポン、

        ポポン”


       
       どれだけの時間が過ぎただろう。進んだのか、戻ったのか。それさえ

      も解らない。誰かの声が、遠くから聞こえてくる。それは、だんだんと大

      きくなり、耳元まで来た。


       「なおくん、なおくん、起きて!朝ですよ。」


      ボクは静かに目を開けた。うっすらとした光景が、だんだんとハッキリし

      てきた。目の前にいるのは(あっちゃんだ!)それも保育園の制服だ。


       「お父さん、早く起きてくださいよ。」


       (お、お父さん?)


      ボクはゆくっくりと起き上がった。恐る恐る自分自身の姿を見た。


       (えーっ!こ、子供になってる〜)


      保育園の制服を着た自分だった。


       「はい、お父さん。ご飯ができましたよ。」


      彼女は、ニコニコしながら”ままごとセット”の器に土の入ったもの渡し

      た。何となく、状況は把握できた。というか、思い出してきたというか、と

      ても懐かしい風景だった。




       ここは、あっちゃんの家の裏山である。緑の木々が茂り、少しだけ砂

      場のようになったくぼみが、ふたりのお気に入りの場所だった。ここ

      で、保育園が終わったあと”ままごと”をしたのだ。記憶がだんだん鮮

      明になって来た。その鮮明な記憶とともに、心もその当時の幼い自分

      になっていくのがわかった。


       「はい!お父さん、ご飯食べましたか?」


      あっちゃんが言った。


       「うん、食べたよ。」


      そう言って、食べる格好だけしてお椀の砂を下に流した。


       「はい、お茶よ。」


      赤いコップを渡された。中には何も入ってない。それでもボクは飲む格

      好をした。


       「ああ、美味しかった。」


      ボクが笑顔で答えると、彼女も笑顔を返した。


       「お風呂にしますか?」


      彼女は、すっかりお母さんぶってる。


       「うん、そうしよう。」


      ボクも負けずにお父さんぶった。




       そうこうしているうちに、日も傾きかけて来た。下から誰かの声が聞こ

      える。


       「あつよ〜!もう降りてらっしゃーい!」


      聞き覚えのある声だった。


       「もう、おねいちゃんったら、いいとこなのに・・・・。」


      彼女は不満そうな顔をした。


       (おねいちゃん・・・・。)


      ボクの頭を不思議な感覚がよぎった。


       「ねえ、なおくん?」


      あっちゃんが急に僕に向かって問いかけた。


       「・・・・・・・・。」


      なんだか真剣な眼差しに見えて、ボクには言葉が出てこない。


       「なおくん、大きくなったら・・・・・。」


      そこで言葉が、いったん止まった。ボクは息を飲んだ。


       「大きくなったら、わたしを・・・・・。わたしをお嫁さんにして!」


       「・・・・・・・・・。」


      ボクの頭は、ハンマーで殴られたようにじんじんしてきた。





                                   (つづく)

       
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      『 幻 愛 』 〜 詩小説 6 〜

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        17



         ボクは必死に描いた。デッサンを書き終えると、絵の具を取り出し、

        パレットに次々と絞り出した。それはまるで、何かにとりつかれてるか

        のようだ。ボクの手は、もうボクの意志を超えている。彼女は黙ってこ

        ちらを見ている。幾度となく、彼女と目が合った。その度に、ボクの中

        の何かが筆を走らせる。



         どれぐらい時間が過ぎただろう、自分でもここまで集中して書いたの

        は数年ぶりだ。ひとまずここで、乾かしたほうがいいだろう。


         「休憩にしようか?」


        ボクは筆を置きながら言った。彼女は笑顔で答えた。そして、立ち上が

        ろうとしたかと思うと、胸を抑えながらその場にうずくまった。


         「だ、大丈夫!」


        あわてて彼女に駆け寄った。額には汗がにじみ出ている。


         「う、ううん・・・・。」


        見るからに苦しそうだ。ボクは、訳も分からず彼女の背中をさすってい

        た。子供の頃、母が咳き込むとこうしていたからだ。しばらく、彼女は大

        きな息を繰り返していた。



         しばらくすると、彼女の呼吸も落ち着いてきた。


         「わ、わたし、もう長くは生きられないの・・・・。」


         「えっ・・・・・。」


        彼女の言ってる意味がよくわからない。


         「ど、どうゆうこと?」


        単刀直入に聞き返した。


         「で、でも・・・・、そうね。話すわ・・・・。」


        彼女が僕の目を見つめてる。心の臓がドキドキする。彼女の唇が語り

        だした。


         「私の話をする前にこれを見て。」


        そう言って、腕をまくった。火傷のような傷が、肩の方まで続いているよ

        うだ。もう片方の腕も同じだった。さらに彼女は、着物の裾をまくった。

        思わずドキっとして目をそらした。


         「お願い!見て。」


        恐る恐る目を向けると、足にもやけどのような跡が腿の方まで続いて

        いるようだ。両足ともだ。ボクには声を出すことができなかった。


         「これが、今の私の本当の姿よ・・・・。」


        絞り出すような彼女の声だった。


         「もう私は昔の私じゃない・・・・・。戻れないのよ。」


        ボクは生唾を飲んだ。


         「あなたもここへ来るまでに、開発された山の姿を見たはずだわ。」


        彼女の目が光って見えた。


         「壊されてしまったのよ。もう元には戻らないは・・・・。でも、まだ残さ

         れてるところもあるわ。」


        覚悟を決めてるようにも聞こえた。彼女は、僕の手をとった。(冷た

        い!)


         「私には、もう時間がないの・・・・。妹を同じ目に合わせるわけにはい

         かないの。」

         
         「い、いもうと?」


        思はず声が出た。



                                           (つづく)

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        『 幻 愛 』 〜 詩小説 6 〜

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          16



           ボクの目の前にいる彼女には、何か懐かしさを感じる。それは、幼い

          頃に置き忘れたままで思い出せない思い出のような気がした。ボクの

          気持ちは、妙に落ち着いている。


           「君を描くよ。ありのままの君を。」


          思いもかけない言葉を発している。彼女は嬉しそうである。イーゼルの

          前に椅子を持ってくると、彼女は腰掛けた。ボクは改めて、彼女の姿を

          見直した。リラックスした自然体の彼女からは、オーラのようなものが

          感じられた。そして、自分の絵描きとしての第一歩を思い出した。




           中学の頃は、毎日毎日、デッサンに明け暮れた。得意としていたの

          は「人物画」である。校内では、美術部の小森として知らないものは居

          なかった。しかし、根っから寡黙な自分には、友達と言える仲間もいな

          かった。根暗で運動神経の鈍い自分は、劣等感の塊だった。そんな自

          分を唯一、救ってくれたのが美術の時間であり、文化祭だった。




           不思議だった。普段、こんな頃のことは思い出しもしなかった。


          (そうだぁ!あれは確か、1年生の文化祭だった。)


           ボクの書いた何枚かの絵の中に、「ひとりの少女」の絵があった。こ

          の絵のモデルが誰かということで、校内の話題となってしまったことが

          あった。文化祭が終わった数日後、
          3年生の教室の黒板に相合傘が書

          かれた。そこには、「小森直也、池西淳代」と書かれていた。ボクは、

          必死になって3階まで駆け上がると無我夢中で、その落書きを消した。

          教室にいた先輩たちは、ボクのことを笑った。でもそんなことは、どうで

          もよかった。ただ、ただ彼女に申し訳なかった。彼女を書いたつもりで

          はなかったのに、校内中の噂になってしまった。だだえさえ、中学に上

          がってからは、お互いに変に意識して口も効かなくなっていたのに、こ

          の有様だ。決定的だった。




          (あっちゃん、ごめん!)心で何度つぶやいたかわからなかった。




           ふと、目の前の彼女に気が行くと、涙を流していた。


           「えっ。」


          思わず声がもれた。あわてて、彼女は顔を隠すと言った。


           「はやく、続きを書いて!」


          彼女は必死である。ボクは、止めていたコンテを動かすと、彼女のデッ

          サンに集中した。何故か、手が自分のものでないようにスラスラと動

          く。こんな想いは初めてだ。



                                           (つづく)

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            15



             「ま、待った!待った!」


            ボクは、あわてて彼女の行動を止めた。彼女は悲しげな目をしている。


             「ぼ、ボクが書くのは山の絵だよ?」


             「・・・・・・・・・・。」


            無言のままだ。よく見ると、彼女の目はとても綺麗だ。黒くはなくて、ま

            るで吸い込まれそうなグリーンである。


             「あなたは、いつも私を見ずに書いている・・・・。」


            彼女がつぶやきだした。ボクは黙って聞いた。


             「いつも、ビルの上から見えもしない私の姿を書いている・・・・・。」


            (わ、私の姿?)理解に苦しむ言葉だ。


             「あなたは、私の姿を何年も何十年も見てない・・・・。昔は、そうじゃ

             なかった。あなたは、あなたの目で見た『本当の私』を書いていてくれ

             た・・・・・。もう私は昔の私と変わってしまったの・・・・・。」


            ここまで話すと、彼女は涙ぐんだ。ボクには、頭の整理がつかなかった

            が冷静に自分の心を取り戻そうとした。



             ボクが東京に出てから書いていた絵は、確かにすべて自分の記憶の

            中にある山の景色だ。それは、その頃の山の景色を愛していたから

            だ。どんな時もボクを包み込んでくれる偉大な自然、山、草花、小動物

            たち。まさに、自分は自然と共に生きてきた。山は自然のうちに、ボク

            に生きる術を「弱肉強食」の世界さえも教えてくれた。



             今、ボクの前で涙ぐむ彼女は誰だろう?ボクに何を言おうとしている

            のか、きっと何かあるに違いない。ボクが東京に出てから、知らず知ら

            ずのうちに目をそらしてきたもの、それは何か?「偽りの絵」を書いて

            お金を貰い、それで満足をしている自分。何のために東京まで出てい

            ったのか。何がしたくて、何が書きたくて、自分は筆を取るのだ。



             彼女も少し落ち着きを取り戻したようだ。着物をまた、綺麗に正すと

            声を出した。


             「なおくんが、このふる里を出てから大きく世の中は変わったわ。」


            寂しそうな声だった。


             「どんな風に?」


            ボクは単純な問いかけをしてしまった。彼女は何度も唇を噛むような仕

            草をした。次の言葉を選んでいるように思えた。


             「人間は、自分勝手よ・・・・。」


            その一言にボクは驚いた。



                                              (つづく)

                         

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              14



               ボクは何をしてるのだろう。いや、何もしてない。何もしてないどころ

              か、人の家でそれも見ず知らずの、いや、一応、会ったことは過去に

              あるかもしれないが、今の姿は初めてだ。なのに、食事を食べさせても

              らい、また、今こうして布団に横になっている。


               (そうだ、母に電話をしないと心配しているに違いない!)


               体を起こそうとしたが、ダメだ起き上がれない。よく考えてみると、別

              段どこか体が痛いわけでもない。しかし、何かに縛られている感じだ。

              仕方ない、声を出した。


               「あの〜 すいません。」


              返事がない。聞こえないのだろうか?もう一度、強く声にした。


               「あの!すいませーん!」


               「はーい!」


              パタパタという足音とともに声がした。


               「どうかしたの?」


              彼女が心配そうな顔をして現れた。


               (あれ、なんか親しげな声じゃないか?)


              一瞬、ボクは戸惑った。彼女もけげんな顔をしている。


               「あ、あっ、いや、ちょっと、家に電話しとこうと思って。」


              しどろもどろになった。


               「大丈夫よ、おばさんには言っておいたから。」


              彼女は平然として言った。


               (お、おばさん?)


              ボクはまた、言葉に詰まってしまった。彼女は少し笑顔を見せた。


               「おばさん、あとは”みどりちゃん”に任せるって。」


              嬉しそうである。


               (ま、任せるって、な、何を?)


              ボクの母とそんなに親しい仲なのか。あー、だめだ。頭が回らない。彼

              女はそんな僕の気持ちなどお構いなしのようだ。


               「ねえ、なおくん、絵を書いてよ。山の絵を。」


              まただ、また言ってる。どうして、そんなに山の絵にこだわるんだ。


               (あれ?待てよ、山の絵にこだわってるのはボクじゃないか。)


              えーい、何とでもなれ。


               「わかったよ、書くよ。山の絵を。」


              少々、投げやりの言葉になった。しかし、明らかに彼女の顔には、陽が

              差し込むような輝きが見えた。それは、まるで天使の笑顔にも見えた。

              するとどうだ、みるみるうちに体が軽くなっていくのがわかった。ボク

              は、慌てるように起き上がった。


               「よかった、元気になって!」


              彼女は、そんなボクを見てニコニコしながら言った。


               (ああ、何という開放感だろう!)


              ボクは、大きく伸びをしてみた。どこも痛くない。平気だ。


               「ちょっと、外に出てみてもいいかなぁ。」


              何気なく、口から出た。彼女の表情が険しくなった。


               「だめ!絶対でちゃだめ!」


              取り乱しそうな殺気を感じた。


               「あっ、い、いいんだ、わかったよ。」


              慌ててボクは、その場を繕った。



               仕方なくというか、取りあえずというか、ボクはイーゼルと油絵の道具

              の入ったカバンを取ると、部屋の真ん中にイーゼルを立てた。彼女は

              黙ってボクの様子を伺っているようだ。近くにあった椅子を借り、真っ

              白なキャンバスをイーゼルに立てるとコンテを手にとった。しばらく目を

              閉じた。そして、閃とともに目を開けると、彼女がキャンバスの前で着

              物を脱ごうとしていた。


                                                
                                               (つづく)             


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                 ボクはまだ、起き上がることができない。目の前にいる女性は誰なん

                だ?


                 「気分はどうですか?」


                彼女は聞いてきた。ボクの頭は起き上がれないだけでなく混乱してい

                た。


                 「あ、あの〜 あっちゃんじゃないよね。」


                よく見ると似ているような、似てないような、聞いてみるしかなかった。


                 「私は、”あっちゃん”ではありません。」


                彼女は、はっきりと言った。ますますめまいがしそうである。


                 「じ、じゃあ、キミは、だっ、誰なの?」


                ボクは、仰向けになったまま動きが取れない。


                 「私は、あなたの召使です。」


                確かにそう言った。(め、め、召使〜?)ボクはもう一度目を閉じた。大

                きく深呼吸をする。よ〜く、考えてみる。手は何とか、動きそうだ。そっ

                と、手を動かし頬をつねった。


                 「痛い!」


                 「クククッ。」


                (えっ!この笑い方・・・・。)


                やっぱり一緒だ。


                 「あ、あっちゃんだよね。」


                ボクは、確信を持って聞いた。彼女は、ボクの顔をまじまじと見ながら

                言った。


                 「私は、”あつよ”の姉の”みどり”よ。」


                (あっちゃんの姉?ああ、そうだ。確かに、お姉さんがいた。5つか、6


                年上だったと思う。名前は・・・・・、ダメだ。思い出せない。)


                 「脅かしてごめんね。ご主人様とか、召使とか。だって、今、流行って

                るじゃない。メイド喫茶って。」


                ボクは呆気にとられていた。お姉さんの存在は間違いない。



                 しばらく時の流れに身を任せていた。彼女は、台所に戻ると”お粥と

                お味噌汁”をお盆に乗せて持ってきた。ボクの横に座ると、笑顔でこち

                らを見た。


                 「食べれるかしら?」


                彼女の問いかけに、体を起こそうとしたが無理のようだ。


                 「いいわ、無理しないで。私が食べさせてあげる。」


                自分でも顔が赤くなるのがわかる。この年になって、他人に食べさせて

                もらうなんて・・・。 

                「はい、あーんして。」


                ボクは素直に左に頭を傾けると、口を開いた。彼女がスプーンですくっ

                てくれたお粥が入ってきた。(おいしい!)ボクは黙って、口を動かし

                た。


                 「はい、もう一回。」


                ボクは言われるままに成っていた。彼女はなにか嬉しそうに見えた。


                 「早く、元気になって、いつものように山の景色を書いてね。」


                 「えっ!」


                思わず声にした。


                 「だって、ほら、油絵の道具もちゃんと持ってきたのよ。」


                彼女の目線の先には、ボクの画材がまとめてあった。(でも待てよ、キ

                ャンバスには何も書いてないはず、真っ白だ。)


                 「ど、どうして、山の景色ってわかるの?」


                彼女のスプーンを持つ手が止まってしまった。すると、その着物の袖口

                から火傷の痕のような大きな傷が見えた。それに気づいたのか、彼女

                はすっと、手を引っ込めた。しばらく沈黙が続いた。


                 「私、あなたのことを見てたのよ。」


                ボクを見つめるようにして彼女が言った。(えっ、ど、どこで?)


                                                  (つづく)         

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                『 幻 愛 』 〜 詩小説 6 〜

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                  12



                   時は、ボクの気持ちなどお構いなしに過ぎていく。何も解決されぬま

                  ま、日曜日の朝が、来てしまった。どうも落ち着いて物事が考えられな

                  い。


                   「なに、そわそわしてんの?」


                  母に見抜かれている。


                   「い、いや。今日ちょっと、出かけてくる。」


                   「出かけるって?」


                  しつこいなーと思いつつも、顔には出せない。


                   「せっかく、油絵の道具を持ってきたんで、少し書いてみようかなぁ、

                   なんてね。」


                  ワザとおどけてみせた。


                   「そうかいな、いってらっせい。」


                  母は、ニコニコしながら行ってしまった。親ほど怖いものはない。どこま

                  で見抜かれているのやら。(えいっ!ほっとけ。)心は強気でも顔には

                  出てこない。



                   彼女との約束の場所は、彼女の家の裏山だ。確かに幼稚園の頃、そ

                  こで何度か彼女と遊んでる。(ままごと?)そうだ。ままごともしてる。彼

                  女がお母さんで、ボクが父親だ。当たり前のパターンだ。(ほかに何か

                  あったか?)思い出せない。空っぽだ。


                   彼女の家の前は通らず、違う道から裏山へと登った。登るというのも

                  大げさだ。あの頃は、高い山にでも登った気になっていたが、大人とな

                  った今では、だだの小高い丘である。何もない。草一つ生えていない、

                  殺風景な景色だ。(ここって、こんなだったかなぁ)呆然としてしまった。

                  そういえば、彼女が道路のことを「愛知万博」のせいで、綺麗になった

                  って言ってたけど、ここもそのせいか。


                   ぐるりと辺りを見渡しても、絵にしたいような構図が見つからない。と

                  りあえず、イーゼルをたてて、キャンバスを乗せた。真っ白なキャンバ

                  ス、なんて綺麗なんだろう。そこに訳のわからない色を塗りたくるなん

                  て、画家はなんて自分勝手なんだ。つまらない独り言が、頭を駆け巡

                  る。



                   彼は、筆を取った。それは、都会のあの屋上での光景とフラシュバッ

                  クする。目を閉じて、頭の中に思い浮かべる。あの緑の木々が、洋々

                  と海原のようにつながっていく姿を。燦々と陽の光が降り注ぎ、まぶし

                  すぎる。そう、これこそが大自然の醍醐味だ。ボクは天を仰いだ。仰い

                  だとともに、頭の中がぐるぐると回りだし、記憶がどんどん遠のいてい

                  く。ああ、体がフワッとした。フワッとしたとともに記憶も途切れた。



                   どれだけの時間が過ぎたのだろう。ボクには、全く見当がつかない。

                  そっと、目を開けてみる。見慣れない天井だ。どうも布団に寝かされて

                  いる気がする。体が重たい。顔を右に傾けてみた。子供の頃に見た、

                  土壁だ。今度は左に傾けた。見覚えのあるような丸いちゃぶ台だ。頭

                  を起こそうとしても持ち上がらない。耳を澄ますと、隣の部屋から


                  トントントンとリズミカルな音が聞こえた。これも聞き覚えのある音た。

                  母が毎朝、まな板で料理をする音だ。いい香りもしてくる。味噌汁の匂

                  いだ。一体ここはどこなんだ。


                   「ううん、うーっ!」


                  起き上がろうとしたら、声が出てしまった。隣の部屋の音が止まった。

                  パタパタという足音と共に、暖簾をたぐって女性が現れた。


                   「あ、あっちゃん?」


                  思わず声に出した。


                   「気がつきました?ご主人様。」


                  確かに彼女は、そう言った。(ご主人様っー!)


                                                 (つづく)      

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                     第11


                     やっぱり、あの頃と一緒だ。彼女にはかなわない。幼稚園でも、小学

                    校でも、彼女は優等生。それに比べて、このぼくは可もなく不可もない

                    ただの男の子だ。しばらく呆然としたまま歩みを進めてしまった。



                     「ねえ、なおくん?」


                    おや、今までにない優しい声だ。


                     「今でも、絵を書いてるの?」


                     「あ、ああ・・・。」


                    次の言葉が見つからない。


                     「一度見てみたいなぁ、なおくの書いた絵・・・。」


                    (えーっ!マジかよ〜)心の鼓動が自分にも聞こえた。


                     「い、いいよ。油絵の道具は持ってきたから・・・。」


                    来たぞ来たぞ、これはチャンスだァ〜。一度に目の前が明るくなった。


                     「今度の日曜日は、どう?」


                    急に積極的になってる自分が怖い。よく見ろ、彼女も引き気味だ。


                     「い、忙しいよね?」


                    また大人しくなってしまう自分が悲しい。


                     「日曜日ね。いいよ。」


                    (おお、神様。仏様。お内裏様〜)我ながらこの急展開に何とか着いて

                    行っている。


                     「どこで会おう?」


                    気が大きくなってる自分が怖い。


                     「そんうねぇ〜 私の家の裏山、覚えてる?」


                     「ああ、覚えてるよ。」


                     「じゃあ、そこにしようか?」


                     「ああ、いいね!」


                    だめだ、舞い上がっている。


                     「あそこで、ママゴトしたの覚えてる?」


                     「へえっ、ま、ままごと?」


                    ああ、また頭のページがめくられて行く〜。

                    確かそんなこともあったような。。。


                    呆然としているぼくに、さらに追い討ちをかける。


                     「その時、約束したよね?」


                     「や、約束っー?」


                    もうすでに僕のページは、真っ白になっている。


                     「覚えてないんだ。。。」


                    彼女は下を向いた。寂しそうにも思えた。


                     「うーん、えーっと、そお。。。」


                    出てこない。今更ながらなんて鈍い頭なんだと、我を嘆く。。。



                     そうこうしているうちに、彼女の家が見えてきた。もう辺りは薄暗い。

                    彼女の家の明かりが見える。(そうだ、久しぶりだし、彼女のお母さん

                    に挨拶していこう。)


                     「なおくん、ありがとう。」


                    (えっ、ここで、さよなら。。。)


                     「い、やっ、せ、せっかく、こ、ここまで、き、来たから、おばさんにあ、

                     挨拶するよ。」


                    ここまで言うのに、実に時間がかかった気がする。


                     「う、うん。ここでいいわ。」


                     「で、でも。。。」


                     「いいのよ。あわない方がいいわ。」


                    彼女はもう決めているようだ。


                    諦めきれないぼくに対して、彼女は覗き込むようにして止めを言った。


                     「だって、約束覚えてないんだもの。」


                    彼女の顔は笑顔に見えた。しかし、ぼくの心は居たたまれない。


                                                    (つづく)      


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                      10



                       彼女は、それ以上「三輪車事件」については突っ込んでこなかった。

                      ふたりは車道へと出た。この道も舗装されて綺麗になった。


                       「きれいになったね。」


                      ぼくは、思わず口にしてしまった。


                       「えっ?」


                      彼女は、ドギマギしている。よく見ると頬が赤くなってる。


                       「あっ、やぁ・・・」


                      綺麗になったのは道路だけど、間違いなく彼女は綺麗だ。


                      (どうした!責任重大だぞ!)単なる言い間違いでは済まされない。


                      僕の頭の中に“渦潮が来た”


                       しばらく沈黙が続いてしまった。先に冷静になったのは彼女の方だ。


                       「冗談よね!このあたりの道路は綺麗よ。愛知万博のおかげで、
                       
                       開発が進んだのよ・・・いいかどうかはあるけど。」


                      彼女の答えに従うしかなかった。


                       「そ、そうなんだ。」


                      どうもうまく会話がつながらない。



                       ふたりの歩調だけがどんどんと前へ進んでいく。追いつかないのは、

                      ぼくの心情だ。彼女は、あたりを見渡しながら言った。


                       「覚えてる?あそこ。」


                      彼女は指をさしながら、ぼくの顔を見ている。ぼくは、慌てて指先の射

                      す方に目をやった。切り立った小高い山の上を指してるようだ。赤い小

                      さな鳥居のようなものが見えた。必死になって、頭の中のページをめく

                      った。


                       「あっ!思い出した。“歯黒べったり”だ!」


                      ぼくは思わず叫んだ。


                       「クククッ。」


                      また笑われてしまった。

                       
                       あの細い山道を登った先に社があって、その前で長い黒髪の女性が

                      祈りを捧げているというのだ。声をかけると、振り向いたその顔は「の

                      っぺらぼう」で口だけがあり、開くとお歯黒だというのだ。もちろん、言

                      い伝えに過ぎない。実際見たことあるなんて、聞いたこともない。聞い

                      たこともないのに、そこのそばを通るだけで怖いのだ。


                       「小学1年の時だっけ、家に遊びに来たことあったよね。」


                      彼女が、おもむろに話しかけてきた。


                       「うん、覚えてるよ。」


                      また、ヤバイ気がしてきた。


                       「帰る時間も忘れて遊んで、帰りは真っ暗になっちゃった。」


                       「ああ・・・・。」


                      嫌なページをめくりだした。


                       「あわてて帰ったよね、なおくん。」


                      こっちの顔を覗き込んでる。来るぞ、来るぞ。


                      ぼくは、黙った。


                       「なおくん、ここまで来て、あんまりにも怖くなってスリッパを脱ぎすて

                      て走ったんだよ
                      ね。」


                       「う、うん。まあ・・・。」


                       「泣いたの?」


                      ほら来た。


                       「な、泣くもんか!」


                       「ふーん、あたし聞いたんだけどなぁ〜 お母さんから。」


                      ちぇっ、おしやべりめ。 


                       「クククッ。」


                      また笑われてしまった。

                                                       (つづく)      


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                         あー、やばい、やばい。ぼくの頭の中を、あの赤いランドセル

                        を背負った「あっちゃん」が行き来している。それも、数十年ぶ

                        りに今目の前に来ようとしているのだ。心臓がバクバクする。息

                        苦しい。


                         玄関では、母とあっちゃんが何やらやり取りをしている。


                         「悪いなぁ、お土産なんて。そんな気つこうたらあかんで。」


                        母の元気な声だけが聞こえる。


                         「おーい、なおくん!あっちゃんやでぇ。」


                        なんで勝手に呼ぶんだ。こっちの気も考えろよ。


                         「なおーっ、あっちゃん、待ってるで!」


                        なんで待つんだよ〜、父は全く知らん顔でいる。もうだめだ。ぼ

                        くは、立ち上がった。おっとと、少し左によろめいた。いわゆ

                        る、足が地に付かないという状況だろうか。一歩一歩、月面を歩

                        く飛行士のような足取りになった。やっとのことで土間まで出る

                        と、今度は母と鉢合わせだ。


                         「何してんの?まってるでぇ。」


                        ぼくは、黙って(ああ・・・)という顔をした。


                         「家まで送ってたりーい。」


                        また勝手なことを言っている。僕の意思というものはどこにある

                        んだ。そうこうしながらも玄関まで出ると、外で向こうをむいて

                        る長い黒髪の女性がいる。それもどこかで見た後ろ姿だ。つい最

                        近、いや、ついさっき。


                         「あ、あの。」


                        ぼくは、そっと声をかけた。振り向いた彼女は、あの行きの電車

                        であった子だ。


                         「こんにちは。」


                        向こうはやけに落ち着いている。


                         「さ、さっき、会ったね。」


                        自分でも落ち着きのないのがわかる。靴さえも普通に履けない。


                         「クククッ。」


                        あの時と同じ笑いだ。


                         「今日、名古屋まで行ってきたの。」


                         「そ、そうなんだ。」


                        落ち着け、落ち着け。心に言い聞かせた。

                         


                         やっとの思いで玄関を出た。風が冷たい。もう日も落ちかけて

                        る。


                         「あたし、帰るね。」


                        いきなりの彼女の言葉に、またも頭が白くなりかけたが、ここは

                        理性が勝った。


                         「家まで送るよ。」


                        彼女が、にっこり笑った。実にかわいい。


                         「あたしの家、覚えてる?」


                        おっと、笑顔とは裏腹のツッコミ。まずいぞ、自信がない。


                         「ああ、覚えてるさ。」


                        心とは違い、口が動いている。


                         「じぁあ、行こっつ。」


                        彼女が先に歩き出した。ここは、男だ。ぼくも彼女の横に並ん
                        だ。


                         


                         実家の前から少し下りの道を行くと、車道に出る。
                        2人で並ん

                        で歩くと、やけに道が狭い。(この道、こんな狭かったっけ?)

                        心がつぶやいた。しかし、よく考えれば、この道を並んで歩くの

                        も小学校の低学年、いや、幼稚園の頃以来かもしれない。道が狭

                        くなったのではない。体が大きくなったのだ。当たり前の思考回

                        路に言葉が出ない。


                         「この道、三輪車で降りたの覚えてる?」


                        彼女が声をかけてくれた。不思議だ。なぜか、気持ちがほぐれ

                        る。


                         「ああ、覚えてるよ。」


                         「なおくん、途中からそこの畑に突っ込んだよね?」


                        やっぱり、余計なことまで覚えている。


                         「ああ、そうだったよね。」


                         「泣いたよね?」


                        さあ、来たぞ。ぼくをどうしようとするつもりだ。


                         

                                              (つづく)     

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